ヴィクトリアM

ウオッカの強さを語るにあたり、言葉などという無粋な表現方法を用いることは最早無礼の極みなのかもしれない。などと考えてしまいました。それほどまでに圧倒的な強さ。
いつもどおりの好スタートから6、7番手の好位置をキープしたウオッカは、3、4歳時の折り合い難がまるで嘘のような大人びた雰囲気で、前半4ハロン46.7秒というG1においてはスローな流れを完璧に乗ってみせました。外から人気の一角リトルアマポーラ福永祐一騎手がピッタリとマークに付き、馬群の真ん中に位置していたウオッカを蓋してしまおうかという気配。しかし、ウオッカ武豊騎手はどこ吹く風とばかりに3コーナー手前から進出を開始。開いたスペースに馬を誘導し何事もなかったかのようにマークを振り切りました。直線を向いても武豊騎手は外へ持ち出す素振りすら見せず、逃げたショウナンラノビアとブーケフレグランスの間に割って入り、ほぼ馬なりのまま一気に先頭に踊り出ると後は突き放す一方。柔軟な身のこなし、伸びやかなストライド、どれも他馬とは比較にならない次元の違う末脚。最後は7馬身差で競馬史に残る大楽勝劇を演じて見せました。
前述の通り、見違えるほどに大人びたレースを見せ、尚且つ最後の末脚もこれまでと同等かそれ以上。騎手への従順さとレースへのひたむきさがベストマッチした、理想とすべきサラブレッド像に限りなく近づいた。そんな印象を今回のウオッカからは感じ取ることが出来ました。これまでどんなに強い競馬を見せても、次も同じ競馬が出来るか? との疑問を持たざるを得なかった少しムラッ気のある馬がウオッカでしたが、敢えて断言いたしましょう。次も同じ競馬が出来ます。安田記念でも歴史的名牝の名牝たる所以を衆目に知らしめてくれることでしょう。
それとウオッカ批評の最後に反省といいますか懺悔をば。
3月29日付のウオッカ批評
やはりあの時の貴女は本当の貴女ではありませんでした。ごめんなさい。
2着人気薄ブラボーデイジー。前走福島牝馬Sを勝ち重賞勝ち馬の仲間入りを果たしていたとはいえ、不良馬場でパワー型のこの馬にとっては勝つ条件が揃いすぎていたというような評価、そして今回の下馬評。現に私も同じように軽視していたわけですが、成長著しく不向きと見られていた東京良馬場のG1でも見事に2着に食い込んで見せた点は文句のつけようもございません。いやはや恐れ入りました。しかしながらウオッカとの能力差は如何ともしがたく、何らかのアクシデントなり展開の利なりがない限りは逆転不可能な完敗。これで秋G1戦線にも名乗りというわけにいかないのが現実でしょう。
3着ショウナンラノビア。6歳牝馬ながらキャリアが浅く、芝経験もこれが4戦目。成長を遂げたといった類の話ではなく、本来持っている能力をようやく発揮出来るようになったというような印象で、このG1経験が今後に活きて来れば更なる上昇も見込めます。鞍上柴田善臣騎手の手綱捌きもお見事。もう完全復活ですね。
4着ザレマ。折り合い重視の作戦だったとは思いますが、いかんせん、ペースが落ち着きすぎました。ハナ差で3着を逃したのは位置取りの差だけです。6着ジョリーダンスは末脚勝負型の馬でペース云々などは関係なく、これが精一杯。
もったいなかったのが7着ヤマニンエマイユで最後方待機の作戦に異論はありませんが直線内を付く素振りを見せながら結局馬群が壁となり大外へ持ち出す大きなロス。これさえなければ2着争いまであったかと思わせる末脚(メンバー中2番目の上がり3ハロン33.8秒)を発揮しているだけに、悔やまれる内容でしょう。やはり東京コースでこその馬だということは胸を張れると思います。

人気馬

6着に3番人気リトルアマポーラ。無難なスタートから上手く人気のウオッカの1馬身差後方外めに付けるベストな位置取り。しかし見せ場はこれだけ。マークした勝ち馬にはグングンと引き離され、最後は1.5秒もの大差を付けられる完敗。距離はもう少しあった方が良く、この結果だけを持ってこの馬の評価を軽んじてしまうのは甚だ早計に過ぎない話というものでしょうが、もし仮にG1を勝っているベターな2200mの距離でウオッカと対戦していたとしても、逆転が可能とは思えない着差でした。これが実力でないとするのであれば、思えばオークスでも1番人気を裏切る凡走を見せていた馬だけに、案外ムラ駆けな所のある馬なのかもしれません。それにしても意外なほど伸びませんでした。
8着カワカミプリンセス。ペースが緩んでしまいレース中ほどから仕方なく上位に進出。溜めるに溜められない競馬となってしまいこの時点でアウトでした。しかし、それにしても最後の伸び脚は案外で、あるいは使い詰めの影響が出ていたのかもしれません。上記2頭ともにウオッカのいない秋のエリザベス女王杯を最大目標として立て直し巻き返しを喫して欲しいと思います。