JCウィーク

紛れの無いペースの中、カネヒキリシーキングザダイヤスターキングマンの2頭を激しい叩き合いの末下した、名勝負のジャパンカップダートの翌日。芝のジャパンカップランフランコ・デットーリ騎乗のアルカセットが、オグリキャップホーリックスの伝説を16年ぶりに打ち砕く、2分22秒1の日本レコードで制覇。マスコミはこぞって名勝負と銘打ち、このレースを報じました。
しかしこのレース、果たして本当に名勝負だったのでしょうか?


レースはタップダンスシチーが注文をつけて引っ張る展開。近走の低迷ぶりから一変して古豪の快速馬は健在。10ハロン通過を1分57秒7というコースレコードを上回るラップで飛ばしまくりました。秋の天皇賞とは打って変わって瞬発力よりも地脚が生きる展開となったことで紛れがなくなり、2番手集団以降に位置取った実力各馬の底力勝負となりました。
アルカセットはやや出遅れながらも内めの経済コースを追走してスムーズに順位を上げました。直線も真ん中の邪魔にならないところから抜け出し、鞍上の絶妙な仕掛けに末脚を伸ばし、勝つべくして勝ちました。馬の能力の高さがもたらした勝利であることに疑いの余地はありませんが、別段神がかった力が働いた大駆けにも見えず、鞍上のデットーリが普通に巧く乗って勝った、というのが印象です。
敗れた馬たちのレースぶりを振り返ります。
ウィジャボードは仕掛けが早く、直線の踏ん張りどころで地脚を残しておけなかったのが誤算だったことでしょう。正直、鞍上のキーレン・ファロンの騎乗はあまり巧くはありませんでした。
王者ゼンノロブロイは明らかな仕掛け早です。残り100mで一杯になったというのが鞍上のケント・デザーモのレース後の談話ですが、直線で大外に持ち出した時点で彼の手綱はかなり大きなアクションで動かされており、仕掛けが早かったことにより終いが甘くなったのは明白です。この日それまでに騎乗していた競馬でも、彼は全体的に仕掛けが早かったように見受けられました。昨年のオリビエ・ペリエや前走の横山典弘のようにギリギリまでラストスパートを我慢させていれば、ジャパンカップ史上初の2連覇が現実のものとなっていたはずです。
ハーツクライはコース取りに失敗しました。大跳びで一旦加速が弱まると再び加速するまでに時間のかかるタイプの馬。現に直線では何度となく進路を変え、残り100mでは真正面にいたアルカセットが壁になりすぐ外に居たウィジャボードを弾き飛ばして内側に急激に進路を変えざるを得なくなりました。ハナの差届かなかったのはそのロスが響いたからではないでしょうか。スムーズに外に持ち出せていればと悔やまれます。クリストフ・ルメールは若干小手先に頼り、馬の本来持っている特性を生かし切れなかったというのが印象です。
一方で、リンカーン武豊の騎乗は出走各騎手中、最高のパフォーマンスだったと思います。


名勝負とは何もタイムやゴール前の接戦に現れるものだとは限りません。有力各馬がそれぞれ完璧な騎乗に導かれて力を出し切り、それが接戦になった時初めて名勝負だといえる。それが僕の考えです。今年のジャパンカップは見応えのあるレースではありましたが、名勝負ではありませんでした。