扉のカギは

快挙の上に快挙は達成されるか。スイープトウショウが再び牡馬混合中距離G1に挑戦します。
ひょっとするとエアグルーヴ天皇賞制覇以上の快挙だったかもしれません。6月26日春のグランプリ宝塚記念。前走安田記念で2着と健闘し牡馬相手のG1クラスでもその能力が充分通用することを知らしめたスイープトウショウでしたが、中距離のしかもゼンノロブロイタップダンスシチーら牡馬の強豪がひしめく宝塚記念で勝ち負けになるなど誰が思ったでしょう。直線坂下で堂々先頭に立ったスイープトウショウは大外から追い込んだハーツクライの追撃をクビの差だけしのぎ、見事1966年エイトクラウン以来39年ぶり2頭目牝馬による宝塚記念制覇はなりました。
近年冴えに冴えわたる池添謙一騎手の手綱捌き。一瞬の決め手が身上の馬を見事にエスコートしています。デュランダルへの騎乗が転機でした。短距離では不利とされる後方一気の競馬でG1を3つもぎ取った、現役でも最高級の切れ味を誇る“名刀”を振るい続けたことにより、自在脚のない乾坤一擲タイプの追い込み馬に対する仕掛けどころの真髄を学びました。
秋華賞で決めた直線一気も見事でしたが、宝塚記念での騎乗こそがその真骨頂。位置取りこそ前だったとはいえ、自ら動こうとせず馬の気のゆくままに任せ、残り400mぐらいでようやくゴーサイン。すぐにはトップスピードに乗せずギアを1段1段上げるように徐々に徐々に手綱を引き絞る。そして鞭の連打。池添の完璧な仕掛けに応えたスイープトウショウはゴールまで一直線に伸びるだけでした。
快挙のかげに卓越された手綱捌きあり。秋の天皇賞の舞台である府中の芝2000mは、緩やかなコーナーと長い直線で各馬の能力を公平に発揮させやすいコースであるのとは裏腹に、スイープトウショウのようなデリケートな一面を持つ馬にとってはプロセスを間違えると命取りになりやすいトリッキーなコース。競馬にはアクシデントがつきものだしG1という大舞台ともなれば少々の隙でも勝負がかった周りのジョッキーたちは見逃さないでしょう。しかし今の池添にはそんなマークさえも跳ね除けてしまえるような逞しさを感じさせます。
宝塚記念天皇賞秋を2つ制した牝馬グレード制導入以降まだ1頭もいません。スイープトウショウは歴史の扉を開けるか。快挙のカギは池添謙一が握っています。