菊花賞を目前に控えた木曜日

シンザン3冠馬が達成されます。シンザン3冠馬達成!」
戦後初の3冠馬シンザン菊花賞から今年で41年が経過します。19戦15勝2着4回という、日本競馬史に残る輝かしい成績を残したこの馬。反面、見栄えのしない馬体に勝っても能力を感じさせないような地味なレース振りは、調教師の武田文吾でさえ半信半疑だったといわれ、予想の神様・故大川慶次郎氏でさえ紙面で一度も本命印を打たなかったとされております。一体この馬、どこにそんな底力が備えられていたのでしょう。
シンザンの主戦をつとめた栗田勝騎手はシンザンの類稀なる能力に気づいていました。名伯楽・武田文吾厩舎の有力馬の騎乗を任されていた栗田は、同厩舎でありむしろ当初は厩舎の看板馬になると目され、武田文吾自身シンザンよりも期待を寄せていたオンワードセカンドの主戦騎手もつとめていました。クラシックに向けて2頭のお手馬がかち合うことになる栗田は、この時迷わずシンザンへの騎乗を選択しました。この選択を疑問に思った武田文吾は栗田に「悪いことは言わないから、オンワードセカンドに乗れ」と説得したといわれています。しかし栗田自身の中で、2頭の間には比較するまでもない力の差があったのです。その選択が正しかったことは、後のシンザンの戦績が全てを物語っています。戦後初の3冠馬を達成したシンザンは翌年も宝塚記念秋の天皇賞を順当に制し、ラストランとなる暮れのグランプリ有馬記念に備えます。
武田文吾はラストランを前に、その前週に組まれていた平場のオープン競走に出走させることを選びました。しかし栗田はこの決定に断固として反対しました。これが原因で対立した両者のわだかまりは消えず、結局有馬記念本番ではシンザンの背に松本善登が騎乗することで決着しました。
有馬記念のレース振りに関しては語りつくされているので本項では割愛させていただきますが、このレース後にマスコミからシンザンに乗った感想を聞かれた松本善登はこう答えています。
「いや〜ありゃ強い。だって上で乗っているだけで勝ってくれるんだもん」
テン乗りだった松本善登のこのコメントは、僕個人としては栗田騎手や武田文吾調教師の言葉以上に、シンザンの強さを物語る最大級の賛辞のように思います。強い馬は競馬を理解しているとは申しますが、シンザンはまさにその言葉どおり、騎手の手を極力煩わせることのない抜群の競馬センスを持っていた馬だったのかもしれません。あまり着差を広げずに勝つシンザンのレース振りが後に「シンザンはゴール板を知っている」という風に称された点も見逃せません。
以降シンボリルドルフが出現するまでの20年間、競馬関係者の間では「シンザンを超えろ!」が合言葉となりました。