菊花賞を目前に控えた火曜日

「大地が、大地が弾んでミスターシービーだ!」

杉本清アナウンサーの実況も語り草ですが、本当にミスターシービー菊花賞はとんでもないレースでした。
いつも通り、スタート直後から後方に控えたミスターシービーは、例によって3、4コーナーで先行集団との差を縮めて直線一気に末脚を伸ばすものだ。と、観ていた競馬ファンの誰もがそう思ったことでしょう。しかし、馬群が向こう正面の坂の登りに差し掛かったころ、いまだ後世に語り継がれる、伝説の「まくり」がここで始まったのです。ミスターシービーは動くことがタブーとされている京都の坂の登りで、まるでここが最後の直線だといわんばかりの物凄い追い上げを見せ、他馬をごぼう抜きし始めました。当然、引っ掛かって持っていかれた訳ではなく、むしろ鞍上の吉永騎手の手は「行け行け」とばかりに動かされており、戦術的に仕掛けたのは明白。そして下りに差し掛かったあたりで先頭を走る馬に並びかけ、4コーナーではそれをも交わし、何と単騎先頭に躍り出ます(!) スタンドで観ていたシービーを管理する松山康久調教師が、その姿を観て頭を抱えたとすらいわれている通り、誰の目にもその仕掛けは無謀な作戦にしか映りませんでした。
しかし、シービーの底力が発揮されたのはそこからでした。吉永騎手の鞭に応えて更に末脚を伸ばしたシービーはゴールに向かって一直線に伸び、後方から迫る岡部幸雄鞍上のビンゴカンタや、この年の有馬記念を制するリードホーユーの追撃を全く許さず、むしろそのリードを更に広げ、結局終わってみれば最後は3馬身差の圧勝劇。ミスターシービー3冠馬としてのみならず、そのレース振りで見事日本競馬史に自身の名を刻み込みました。
もし仮にディープインパクト3冠馬になったとしても、ミスターシービーの残した一種異様なインパクトに到達することはできないかもしれませんw