ミスをしなければ

勝ったのは天才でした。
見た目にはローズSの再現。しかし、それよりもはるかに密度の高い内容。前走折り合いを欠いて行きたがったラインクラフトは、今回も道中若干首を上げて行きたがる面を見せましたが、全くの許容範囲内。地力だけで先行馬を捉えて直線は京都の平坦を生かして粘りこみをはかる必勝パターンに入りました。
一方のエアメサイアは戦前より相手をラインクラフト1頭に絞っていたはずですが、相手の位置取りに合わせて自ら前につける作戦では、自身の持ち味を相殺されてしまいかねず、出だしからビハインドを背負うことになってしまいます。G1ではそんなごまかしはきかないことを知っている武豊は、だからこそ自分の競馬に徹することを選択しました。
京都の内回り2000mはクセもので、直線が短くコーナーもきつい。中団より後ろの位置取りで挑むエアメサイアにとっては不利な材料であり、宿敵であるラインクラフトにとってはプラス材料。ローズSで負かしているのにも関わらず、1番人気を譲った原因はそこにあります。だからといってエアメサイアが短い直線を考慮に入れて、3、4コーナーを強引に押し上げていったのでは距離のロスが大きすぎます。それこそ、短い直線を利して粘りこみをはかる、ラインクラフト福永祐一の思うツボです。
武豊はそのロスが最小限に抑えられるよう、馬群の中をスムーズに追い上げる必要がありました。「慎重に乗りました。スタートから1つのミスもしなければ勝てると思っていた。」とレース後に語った通り、スタートを決めて道中脚をため、3、4コーナーで見事馬群を捌き外に持ち出したエアメサイアは、余力充分に直線その末脚を伸ばしました。
2000mという距離でもG12勝馬の実力を如何なく発揮したラインクラフトと、それを導いた福永祐一もお見事。しかし、それをハナ差制したのは間違いなく天才・武豊の手腕でした。