優雅

「稀代の名牝」と呼ばれた、アグネスフローラが死亡しました。


とにかく非の打ち所のない馬でした。
鞍上の意のままに位置取りを決めることが出来るテンの良さと、勝負どころで自ら動いて出ることの出来る自在性を兼ね備えた類稀なレースセンス。そして、桜花賞のように前をカットされ、更に故障馬の煽りをモロに受けるという二重の不利を味わいながらも、直線に入り、まるで何事もなかったかのごとく、いつも通りため息が出そうなほど綺麗なフットワークを披露し駆け抜けたメンタル面の強さは、他の追随を許しませんでした。
オークスエイシンサニーに足元をすくわれはしましたが、河内洋が後に語ったように、レース中の骨折がなければ圧勝で無敗の2冠馬を達成していたことでしょう。460kg台と当時の牝馬にしては馬格もしっかりしており、無事ならばどこまで成長していたか、その可能性は計り知れません。そのあたりも「稀代の名牝」と呼ばれる所以でしょうか。
「名牝から名馬は生まれない」とは今となっては古い格言ですが、繁殖にあがってからのアグネスフローラはこの見えないプレッシャーに長く悩まされました。オークス馬である母アグネスレディーから受け継ぎ、自身で昇華されたその競走能力を受け継いだ素質馬を多く輩出するものの、故障や体質の弱さで大成できなというジレンマが産駒には常にのしかかりました。しかし、晩年になってダービー馬アグネスフライトと、無敗の皐月賞アグネスタキオンのクラシックホースを立て続けに2頭輩出。アグネスタキオンは今年2歳勢がファーストクロップで、既にJRAで5頭が勝ちあがり、そのどれもが周囲から高い評価を受けるなど、その影響力を確実に後世に伝えています。やや遅ればせながらもアグネスフローラは「稀代の名牝」としての名声を繁殖牝馬としても確かなものにしたのです。


近年ではエアグルーヴやベガが、名牝として名馬を多数送り出していますが、アグネスレディーから連なるこの血統の活躍馬には、どこか走りに優雅さを感じさせます。前述したようにアグネスフローラの走法は本当にため息が出るほど綺麗で気品深いものでした。そんな走りを受け継いだクラシックホースを2頭、世に送り出したアグネスフローラは、そういう意味でも「稀代の名牝」と呼べるでしょう。
アグネスフローラのご冥福をお祈りします。