因縁

今日はちょっとマイナーな馬の話。


16日土曜日の小倉9R足立山特別で安藤勝己騎乗のマヤノグレイシーが圧倒的1番人気に応えて快勝。脚部不安を乗り越えて実に3年ぶりとなる勝利を収めました。
安藤勝とマヤノグレイシー。彼らは切っても切れない因縁で結ばれています。
4年前の9月8日阪神競馬場5R新馬戦。このレースでデビューを迎えるマヤノグレイシーの背中には、まだ地方笠松競馬所属だった安藤勝がいました。好スタートからハナを奪うとマイペースの逃げ。直線も余裕の手応えで残り100m。ラストスパートに向けて左鞭を振りかざした安藤勝にアクシデントが降りかかります。鞭に過剰に反応したマヤノグレイシーが急激に斜行して内ラチに接触。あまりの衝撃に安藤勝は内ラチの更に内側に弾き飛ばされ、第8胸椎圧迫骨折、右第6肋骨々折、右足第2基節骨々折という重症を負いました。更に馬自身も右脚に浅屈腱炎を発症し、散々なデビュー戦となってしまいました。
しかしそんな酷い目に遭ったにも関わらず、怪我で休養中の安藤勝はマヤノグレイシーのことを気遣っていたといいます。「鞭など使うべきではなかった。もっと大事に乗ってやればよかった」とし、競走中止も故障もその非は自分にあるのだと自らを戒めました。そして不運のデビュー戦から9ヶ月後が経過した02年6月22日阪神1R未勝利戦。ようやく復帰戦にこぎ付けたマヤノグレイシーの鞍上には、やはり安藤勝の姿がありました。
新馬のつもりで大事に乗ります」
そう言い残した安藤勝は、言葉どおり鞭を1発も使わずに後続を7馬身も千切る圧勝劇を演じ、デビュー戦では見せることの出来なかったマヤノグレイシーの本領をまざまざと見せ付けました。続く小倉の日田特別(500万下)では後方待機策から直線一気を決める競馬を経験させて勝利を収め、安藤勝は「これで誰が乗っても大丈夫」と言い残し、玄海特別(1000万下)では橋本美純にバトンタッチしました。まだ笠松に所属していた安藤勝は地元の騎乗馬の都合がつかない限り中央競馬に参戦することがかなわず、乗りかわりを受け入れざるを得なかったのです。このレースでは2着だったマヤノグレイシーは、その後再び脚部不安に見舞われ、またしても長期の休養を余儀なくされることになります。

そして今年5月、2年9ヶ月ぶりに復帰し、500万クラスを藤岡佑介幸英明で2戦し2着、4着の成績を収めました。そして先日の足立山特別で今度は中央競馬騎手の肩書きに変わった安藤勝を鞍上に迎えました。マヤノグレイシーは名手の手綱に導かれ、安藤勝が騎乗して以来となる3年ぶりの勝利を収めました。
「強かったです。力が1枚も2枚も上ですね。道中もスムーズでどんな競馬も出来ました。力が違いました」
レース後そう語った安藤勝。4年前、自身に大怪我を負わせたアクシデントなど微塵も感じさせないほどに成長していたマヤノグレイシーに、もしかするとコメントでは語らなかったような熱い思いを胸中に巡らせていたのかもしれませ。
長い時を経て、心身ともに成長した馬と、自らの身を置く環境を変えた騎手は、偶然なのかはたまた必然か、こうして再会を果たしました。またその因縁が幕を開けたのかもしれません。