つぶやき

ディープインパクトの海外遠征プランが詳細に決まりました。正直避けて欲しかった選択肢です。とだけいうと誤解を生みそうなので自己の思慮に対して言及させていただきますが、決して凱旋門賞への挑戦を非難しているわけではありません。むしろ、ディープの強さを誇示する舞台は凱旋門賞以外に有り得ないとまで思っておりましたから、陣営がそれを目指す決断を下したことは大いに賞賛すべき英断だとさえ考えます。要するに「そこに至るまでのプロセス」の採択が果たしてディープにとって最良であるのかどうか、そこに強い疑問を感じるのです。


疑問は大雑把に分けて2つあります。1つは宝塚記念を使う必要があるのかどうか。
僕の尊敬する競馬評論家・合田直弘氏はディープが海外遠征を目指す前提を踏まえた考えとして、春の天皇賞出走は取るべき選択ではないのではとの疑問を提しました。しかし、スローペースにも動じることなくほぼ完璧に折り合いをつけ、長距離戦では無謀とも呼べる3、4角大捲りというとてつもないパフォーマンスを演じて見せたディープのレース振りは、折り合いがついたときには戦術の融通が幅広くきくという特性を確認出来たという意味で、大きな収穫のある「前哨戦」となりました(その辺は合田さんも同意見だと思います)。得るべきものを得られた今、敢えて宝塚記念でもう一度国内レースを走る必要があるのか。そんな暇があるのならばさっさと現地入りして環境に慣れさせるべきなのではないでしょうか。
もう1つの疑問はそこに付随するのですが、現地の水に慣れることの重要性をディープ陣営が軽視しているのではないかということです。過去に凱旋門賞に挑戦した日本馬は5頭いますが、現地に長期間滞在した馬は現在のところ同レースの日本馬最高着順である2着に健闘したエルコンドルパサースピードシンボリ、そしてシリウスシンボリの3頭です。他の2頭はマンハッタンカフェタップダンスシチーですが2頭ともアクシデントに見舞われています。前者は故障により競走能力喪失の重症を負い、後者は飛行機のトラブルで本番直前に現地に入厩する破目に。まぁタップに関してはこの際置いておきましょうか。マンハッタンカフェ小島太厩舎で偉大なる先輩にサクラローレルが居ます。このサクラローレルも国内最強の称号を引っさげて凱旋門賞挑戦の道を選び、前哨戦として同コース同距離で行われるフォワ賞に出走しました。しかし結果は8頭立てのシンガリ負け。レース中に発症した右前浅屈腱炎が敗因でした。あまり知られていない話ですが薬殺処置が取られる寸前だった程といいます(陣営には「覚悟をしておいてくれ」という通達があったとか)。国内で履いていた蹄鉄が使えず故障の原因になったという説もありますが、マンハッタンカフェサクラローレル、ともに脚元に競走馬としては致命的な故障を負って惨敗した忌まわしき前例は馬場や環境に慣れるための期間は短かったからというように考えるのはおかしいでしょうか? 五体満足で帰国できたのは長期滞在を敢行した前出3頭とタップダンスシチーのみです。そのタップでさえ持ち前の持久力を発揮できずにズルズルと馬群に沈みました。
えっ、おかしいって? もうひとつ根拠があります。エルコンドルパサーの長期滞在の例ですが、現地入り当初欧州の不慣れな馬場に四苦八苦していたエルコンドルパサーは、調教を繰り返すごとにその馬場に適した走法を会得し馬体も欧州向きに変化していったそうです。馬場に適応することは言うまでもなく故障などのアクシデントにも対応できるということです。


これも言うまでもないことですがディープインパクトがぶっつけ本番で凱旋門賞が行われるフランスの環境とロンシャンの馬場に対応できないとは限りません。事実滞在期間が短くてもG1を制したタイキシャトルシーキングザパールの例もあるわけですしね(ともに外国産馬ではありますが)。ただディープインパクトのような日本競馬史に残る強い馬が海外へ遠征する際、可能な限り万全を期して欲しいという競馬ファンのエゴをつぶやきたかっただけです。
長々と語っちゃいましたが常識破りの英雄がそんないち競馬ファンの心配をも吹き飛ばすような激走を世界のホースマンに知らしめてくれることを期待しています。「世界のホースマンよ見てくれ、これが日本近代競馬の結晶だ!」の実況が再び轟いてくれればこれ以上の喜びはありません。