ラストダイアリーin2005

ディープインパクトの敗戦は今年の彼が繰り広げたどのレースよりも衝撃的でした。


競馬というスポーツは古くは汚いイメージの付き纏う、一介のギャンブルとしてでしか認知されていませんでした。ハイセイコーの出現によりそのイメージが一新、ミスターシービーという個性派がその流れを軌道に乗せ、競馬のスポーツとしてのオモシロさを際立たせました。そしてオグリキャップの出現で競馬は大衆娯楽として世間に完全に定着したといえるでしょう。


競馬が一世を風靡する側面には必ずといって良いほど、時代を彩る1頭の馬の存在があります。前出の名馬たちは競馬ファン以外に対する認知度も高く、いわばアイドルホースとしてその名を馳せました。ただしその競走能力は確かに一級品であるとはいえ、「最強」と呼べるに相応しいものであったかどうかは、疑わしいものがあります。


俗に言われる「善戦マン」や「実力はあるのにG1を勝てない」タイプの馬がファンの人気を集めるのはいかにも日本的です。名手・岡部幸雄をして「完璧」と評された7冠馬シンボリルドルフは、その実力とは裏腹に人気の面で歴史に名を刻むことがなかったことが、人気=実力ではない証明といえるでしょう。


ディープインパクトの人気の質はかつてのアイドルホースたちとは一線を画します。


父は大種牡馬サンデーサイレンス、兄弟にも活躍馬を多数持つという超のつく良血馬。無敗で3冠を制したようにルドルフのような完璧なまでの「強さ」を有するディープインパクトは、雑草魂の叩き上げで1流馬にのし上がったハイセイコーオグリキャップとは違い、一見すれば日本的とは程遠い存在です。


ファンの心を掴んだのは何であろう、彼のレース振りに尽きます。
ほとんどのレースで出走馬中最低体重とされる小兵さは頼りなさげ。それでも大きな相手に立ち向かっていく姿を自分と重ねあわせるファンも多数いると聞きます。


後方からの直線一気はミスターシービーを髣髴と「危うさ」を孕んでいるし、これでもかというほどにブッ千切る圧巻の着差はナリタブライアンを思わせる「ド派手さ」。大衆が好む「分かりやすい」競馬を繰り広げつつ、無敗で3冠を制したようにシンボリルドルフのような完璧なまでの「強さ」までをも兼ね備えているディープインパクト


武豊騎手の言葉を借りれば彼は競馬界のみならず現代に必要とされた「英雄」であるのでしょう。


敗戦という結果。
にわかには受け入れられないでしょう。しかし事実、彼は敗れました。敗因を論じるのは不毛なことであるかもしれません。しかし何かに敗因を求めなければやるせない気持ちをどこにもぶつけることが出来ない。ファンが一番もどかしい思いをしました。


伝説は費えました。しかしその功績はひとつも色あせることはありません。
来年。我々の夢をもう一度彼に託しましょう。いちファンとして、祈ります。
DEEPIMPACT