オークス

ブエナビスタが辛くも勝利を掴みましたが、僅かハナだけのギリギリの着差や苦しんだレース展開とは裏腹に、ブエナビスタ1強世代をより強く印象付けるような結果となりました。
スタートが遅いのはいつものこと。そこから前傾の扶助をとらずに折り合いに専念することも予想通り。スローな流れでも後方内めで息を潜め、直線の爆発力に賭けるこれまでのレースパターンの踏襲。しかし、安藤勝己騎手の胸中には距離を稼ぐコース選択が思い浮かんでいたようです。現に午前のレースからインコースを付いて抜け出す競馬で結果を出してきており、見た目程内外の差はなく、バラけやすいタフな東京2400mレースにおいてならば、マークの集中する圧倒的1番人気馬とはいえ、決して無理のない選択肢であるとは認められるでしょう。しかし、ブエナビスタの爆発的な末脚は本来、不利を受けない大外を伸び伸びと走らせてこそ活かされるもの。どれだけの距離ロスを被ることになろうとも、最後は他馬とはケタの違う末脚で差し切ってくれるはず。二律背反する思惑が名手の身動きを封じ、中途半端なコース選択と明白な仕掛けの遅れを誘いました。
一方、レッドディザイア四位洋文騎手のとるべき選択は一つでした。桜花賞で爆発的な末脚を発揮して勝利の寸前までに手が届いたと思った瞬間、その遥か上を行く圧倒的な爆発力で外から交わされてしまい涙をのみました。更にあろうことか、その末脚にはまだ余力が残っているかのようにも見えたほど、ブエナビスタとは歴然たる力差がありました。同じ位置からでは勝ち目がない。それならば前で流れに乗り、直線までに出来る限りのアドバンテージを稼いで粘り込む以外には、勝つために取るべき道はなし。内枠3番はおあつらえ向き。やや掛かり気味の追走となりながらも、中団より前めの位置で1コーナーまでにはピタリと折り合い、3コーナー入り口ではライバルに7,8馬身の差をつける狙いに狙った通りの展開に持ち込みました。そして直線では狭い馬群の中に突っ込み馬一頭分の隙間を縫って抜け出しにかかります。後方でライバルが内に行くか外に行くかで戸惑っている中、早々に1馬身以上の差をつけて先頭に立ち後続を突き放す、完璧過ぎる競馬。
安藤勝己騎手が何故勝てたのか、四位洋文騎手が何故負けたのか。手綱捌きに明白な巧拙の出た二人の騎手の勝敗を分けたのは、ブエナビスタが強かったからだと以外何も言い様がありません。スローで流れるレース展開も、水準を上回る強いライバル馬が完璧なレース運びをしても、鞍上さえも悔やむコースロスと仕掛け遅れがあったとしても、馬の能力一つで全てを帳消しにしてしまう、圧倒的な強さ。稀代の名牝とは言葉相応の賛辞のつもりでしたが、それだけではまだ足りない。これから先のこの馬のキャリアを考えてしまうと、今はまだ何も思い浮かばない。優駿牝馬。歴史に残る競馬をして勝利した、そのレースの名前を、今はブエナビスタを賛辞する言葉として送りたい。